倉澤治雄氏 オンラインセミナー
「技術先進国中国からみた、 日本も『車が家電製品』の時代に」 倉澤 治雄 氏 オンラインセミナー
衆議院会館において開催されたオンラインセミナー。
今回は、科学技術、特に中国の事情に精通したジャーナリストの倉澤氏に、中科学技術の最新動向や、そこから見た日本の科学業界の課題についてお話しいただきました。
本記事では、こちらのセミナーをギュッと凝縮してレポートいたします!
倉澤氏について
今回ゲストとしてお話しいただいた倉澤氏は
■東京大学教養学部基礎科学科卒業
■給費留学生として国立ボルドー大学大学院第三課程博士号取得(物理化学専攻)
■日本テレビ入社後、北京支局長、経済部長、政治部長、メディア戦略局次長、報道局解説主幹などを歴任。
■科学技術振興機構・中国総合研究センター・フェロー就任
■2017年科学ジャーナリストとして独立
と、常に科学や情報の最前線で研究・取材を重ねてこられた方です。
この倉澤氏が本講演を通じて切に訴えてらっしゃったのは、「中国は本当に凄い」「日本は大きく遅れをとっている」という点です。
本講演レポートにて、中国のどの点が凄いのか、日本の課題点はどこなのか、お伝えしていきたいと思います。
講演レポート
車が家電になる日
今年4月13日、物流大手の佐川急便は、自社の配達車両に小型EV(電気自動車)を採用すると発表しました。企画や設計は日本のEVベンチャー、ASF株式会社が担い、生産は中国・広西に本拠地を置くの「柳州五菱汽車」が請け負います。
この柳州五菱汽車、中国で格安の小型EVを製造・販売する会社として、近年、急成長を遂げています。その主力車両は「宏光mini」。その価格、なんと日本円にして約45万円です。家庭用電源から充電できるということもあり、中国の農村部で人気に火が付き、現在では都市部でもシェアを拡大しています。
中国・深圳(シンセン)では、全てのタクシーやバスが電気自動車になっています。環境問題と価格の低下が相乗効果を生み、電気自動車が家電となる日も近いのではないでしょうか。
また、佐川急便の小型EVのニュースからは、自動車産業のパラダイムシフトの可能性を読み取れます。
従来の自動車産業は、自動車メーカーを起点として構造化されておりましたが、佐川急便の小型EVは、設計会社が佐川急便のためだけにカスタマイズした車両を設計し、部品も、柳州五菱汽車のものだけでなく、なんと一部、日本のものも組み込まれております。今日明日の変化ではありませんが、いずれ、自動車産業の構造変化を見る日が来るかもしれません。
宇宙開発は科学技術力のバロメーター
各国の科学技術を測る指標は様々ありますが、その中で最も分かりやすいものが宇宙開発です。現在、米中が火星探査を行なっておりますが、ここを切り口に両国の宇宙開発技術を見てみましょう。
アメリカは、1964年の火星探査開始以降、12年の年月をかけて、1976年に初めて探査機を火星に着陸させることに成功しました。地球と火星の間の距離は約7,500万kmと月の約200倍もあり、「地球と火星の間には探査機の墓場がある」と言われるほど、各国は火星探査に失敗を重ねております。その中で中国は今回、「火星の軌道に乗せる」「火星を週かいさせる」「火星へ着陸させる」という3ステップを一度に成功させ、各国を驚愕させました。今後、火星からのサンプルリターン、有人火星飛行、有人火星着陸を米中のどちらが先に実現させるのか、水面下で熾烈な「科学技術開発戦争」とも言うべき争いが繰り広げられています。
また、月のポジション獲得競争も熾烈です。嫦娥4号は、地球からは見えない月の裏側に着陸をし、南極近くのクレーターで水の探査をしました。また、嫦娥5号は、ロシアに次いで2番目に無人のサンプルリターンを実現。この動きにアメリカも危機感を露わにし、有人月面探査のプロジェクトを立ち上げました。
もう一点言及すべきは、衛星についてです。
中国は、35機の「北斗3型」を打ち上げ、2020年6月に中国版GPS「北斗」を完成させました。数年後には、その精度は場所によって数センチメートル単位まで向上すると言われております。この北斗のチップは現在スマホにも多く搭載されております。量子通信衛星「墨子」もまた、革新的な技術の結晶です。量子通信というのは、絶対に情報の漏洩しない通信手段のことで、軍や金融業界にて使用されます。地上では100kmだった通信可能距離を、衛星を利用することにより7,600kmにまで伸ばし、中国国内32都市を結ぶネットワークを構築しました。
様々な数字から見る中国
ここでは、様々な数字から、中国が科学技術大国になっていることを確認していきましょう。
まず、米・中・日の研究開発費総額の推移です。
中国は、2009年には日本を抜き、2019年にはアメリカを抜きトップとなりました。政府予算ベースで見てみると、中国は2010年、アメリカを抜きトップとなっております。
実は、中国には科学技術進歩法という法律があり、「国の予算の科学技術経費の伸びのスピードは、国全体の経常的な収入の増加スピードより高くしなければならない」「社会全体の科学技術研究開発のGDPに対する比率は、逐次増加させなければならない」と定められております。
日本のメディアでは中国の軍事予算の大きさばかりが報じられておりますが、最も注視すべきは科学技術予算で、その今後の伸びを想像すると、日本との技術の差が開いていくばかりだということは、明白です。
研究者の数でも中国は世界トップを走っています。
2005年にはアメリカを抜きトップに立ち、その後もその数を伸ばし続けております。2009年に研究者の数が大きく減っていますが、これは研究者の定義の変更によるものです。日本では大学を卒業し企業にて研究活動をしていれば研究者としてカウントされますが、中国では、博士課程を卒業し賃金を得て研究活動に没頭している者のみが研究者としてカウントされます。その定義の中でも2011年、中国はアメリカの研究者の数を上回り、その数は右肩上がりです。
もし中国で研究者が日本と同じ定義でカウントされていたら、恐ろしい数のエンジニアが中国にいるということになります。
きらりと輝く「科学技術立国」の再興に向けて
それでは日本は、今後中国に負けない技術大国になるためには、何をすれば良いのでしょうか。
第一に、研究開発費の増額と研究人材の育成です。
研究成果は投じた研究開発費と正の相関関係にあります。日本の科学技術予算はここ20年ほぼ横ばいです。 これを少しでも右肩上がりにしていくことが、今後の日本の科学技術の向上につながります。 また、それに伴い、ドクター志望の学生を増やすことも急務です。 OECD諸国でドクター志望者が減っているのは日本だけです。他の諸国では 、ドクターがなければ働くことができないという 社会になりつつあります。 研究を行うのは装置ではなく人間です。 人の増加と育成・成長なくして科学技術の発展はありえません。
第二に、大学・研究機関のオープン化・プラットフォーム化です。
日本の大学や研究機関も、他国から留学生や研究者を大量に受け入れていく必要があります。海外の一流大学・大学院は多国籍化が進んでおります。優秀な学校や機関であればあるほど、様々な国から優秀な人材が集い学習・研究をともにしております。
ただ、逆に言うと、日本の科学技術はここまで日本人の力だけで発展してきたということになります。日本の大学や研究機関に諸外国から優秀な人材が集えば、その発展は加速度的に早まるでしょう。
講演では…
この他にも原子力技術について、 ファーウェイについて、シンセンの活気について、 等々、様々な切り口で最先端の科学技術国・中国の解説をして下さいました。
またこれから日本がどうしていくべきか、上記以外にも様々な言及をいただきました。